川端康成

 和服に外套の駅長は寒い立話をさっさと切り上げたいらしく、もう後姿を見せながら、 「それじゃまあ大事にいらっしゃい」 「駅長さん、弟は今出ておりませんの?」と、葉子は雪の上を目捜しして、 「駅長さん、弟をよく見てやって、お願いです」  悲しいほど美しい声であった。高い響きのまま夜の雪から木魂して来そうだった。  汽車が動き出しても、彼女は窓から胸を入れなかった。そうして線路の下を歩いている駅長に追いつくと、 「駅長さあん、今度の休みの日に家へお帰りって、弟に言ってやって下さあい」 「はあい」と、駅長が声を張りあげた。  葉子は窓をしめて、赤らんだ頬に両手をあてた。